大判例

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山形地方裁判所 昭和25年(行)5号 判決

原告 鈴木藤右衛門 外七名

被告 山形県

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、(一)被告行政庁が昭和二十四年十二月二十四日原告等の申請に係る水産動物捕獲特別許可に対しなしたる不許可の決定は之を取消す、(二)被告は原告等に対し金壱百万円を支払え。訴訟費用は全部被告の負担とする旨の判決を求め、その請求の原因として、飽海郡吹浦村高瀬村を貫流する月光川支流滝淵川並びに三田川は川巾一米乃至二米前後延長一里前後の小河川であるが、年々十二月より一月にかけ産卵期には夥しい鮭が上流を目指して群上し日産千尾に達することも稀でなく、県内は固より全国でも珍しい豊漁のところで昔時は部落民が自由に鮭を捕獲して自家需要に或は副業になし来つたものである。右流域の鮭の捕獲は近時桝川鮭漁業生産組合のみが許可を与えられて漁利を博しているので、これを拱手傍観する外なき原告等は連年に亘り被告県に許可の申請をなし運動を継続して来たところ、昭和二十三年十二月原告等(部落代表)に許可になる見込がつき、当時被告県を代表して水産課長伊藤金次郎、技師渋谷啓一等が現地調査に現地部落に出張し、両氏はそれぞれ地元大衆に対し、特別許可の申請書は毎年県に出して貰うか二十四年度から毎年許可になるから隣接部落の協調融和を図り人工孵化事業の発達に寄与せられたい。孵化後の三年五年後を楽しみに捕獲場の建設等設備を完遂せらるる様との趣旨の指示を申し渡し、以て昭和二十四年度からは毎年許可する旨公約した。よつて原告等は昭和二十三年十二月二十九日被告県に対して申請したところ、昭和二十四年一月四日前記公約通り被告県より、原告藤右衛門、重吉、敏男、甚太郎等に対し許可期間一ケ年、捕獲の種類鮭、捕獲の場所月光川支流滝淵川三田川の合流点より上流滝淵川筋、原告泰治、泰雄、清、六兵衛等に対し、許可期間並種類前同、捕獲の場所月光川支流滝淵川三田川の合流点より上流三田川筋と指定した水産動物捕獲特別許可をなし、同日許可証を発付した。そこで原告等は被告県の指示申渡の通り滝淵川上流及三田川上流地点に二間に三間の捕獲場各一棟宛を建設し、資金約二十万円を投下して永久採漁の準備を完成し、昭和二十五年度分として昭和二十四年十二月原告等より被告県に対し捕獲特別許可申請をしたところ、図らんや被告県は昭和二十四年十二月二十四日山形県の許可方針に該当しないとの理由で冷酷なる不許可の決定をした。しかしながら右不許可決定は次の理由により違法不当な行政処分であつて取消されるべきものである。即ちこの種特別許可については一度許可のあつた以上毎年許可されるのが慣例であつて本件決定はこの慣例を無視しているだけでなく、前記公約に反していて不当なものであり、社会通念からするも看過し得ない。被告県が従来の慣例に従い、且つ前年の公約通り右許可をしたならば昭和二十五年一月中まで少くとも鮭にして二千尾、これを一尾六百円に換算するも百二十万円、労力を控除するも百万円程度の利益は得られたのである。即ち原告等は被告県の前記違法不当な不許可決定によりこの得べかりし利益を喪失したのである。よつて前叙理由なき不許可決定の取消を求めるとともに、この請求と関連する前記損害賠償請求のため本訴提起に及んだ次第であると述べ、尚被告県の、原告佐藤六兵衛は捕獲申請の事実なく従つて同人に対し許可をなした事実もないとの主張に対し、佐藤清一が佐藤六兵衛を襲名したのであつて、同人は他の原告等とともに被告に対し捕獲の申請をしたものであると述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は請求の趣旨(一)につき請求棄却、(二)につき訴却下の各判決を求め答弁として、原告等主張の月光川支流滝淵川並に三田川が川巾一米乃至二米前後、延長一里前後の小河川であつて年々十二月より一月にかけ産卵期には夥しい鮭が上流を目指して群上すること、右河川は県内は固より全国でも珍らしい豊漁のところであること、原告等が被告県に対し右流域の鮭捕獲の許可の運動を継続して来たこと、昭和二十三年十二月原告等に許可になる見込がつき、当時被告県を代表して技師渋谷啓一が現地調査に現地部落に出張したこと、昭和二十三年十二月二十九日原告等は被告県に対し水産物捕獲の特別許可を申請し、被告が昭和二十四年一月四日原告等主張通りの許可をあたえ、同日許可証を発行しそれぞれ交付したこと(但し原告等佐藤六兵衛については捕獲申請の事実なく、従つて之に対し許可をしたこともない)、原告等が昭和二十五年度分として捕獲の特別許可申請をなしたところ、被告県はこれを不許可としたことはそれぞれ認める。滝淵川上流及ど三田川上流地点に原告等がその主張の如き永久採捕の準備を完成したことは不知、他は全部否認すると述べた(立証省略)。

三、理  由

先ず職権を以て本件水産動物特別許可申請に対する不許可決定の取消を求める訴の当事者適格について判断する。本訴はその請求の趣旨によると被告山形県の行政庁のなした右不許可決定の取消を求めるというのであるが、行政処分の取消を求める抗告訴訟は当該処分行政庁を被告として提起すべきであり、国又は地方公共団体は被告適格を有しないのであるから、(行政事件訴訟特例法第三条)、山形県行政庁のなした行政処分の取消を求めながら、山形県自体を被告として提起した本訴は、当事者適格なき者を被告とした訴であつて、爾余の判断をまつまでもなく、すでにこの点において失当として棄却さるべきである。次で損害賠償を求める訴の当否を判断する。本訴主張は要するに、原告等は山形県漁業取締規則(明治四五年山形県令第二十九号)第二十二条により一定期間禁漁区と定められている飽海郡滝淵川及びその支流の三田川において、右禁漁期間中鮭捕獲の特別許可を得ようとして昭和二十四年十二月山形県知事に水産動物捕獲特別許可申請をしたところ、知事は同年十二月二十四日山形県の許可方針に該当しないとの理由で却下を決定したが(原告等は右申請を山形県になし、山形県が却下したとしているが、明かに山形県知事の誤りである。蓋し山形県自体は行政庁ではないし、右申請の処分行政庁が知事であることは前記取締規則第二十一条に明規されているからである。)、右決定は違法不当の行政処分であり、この違法不当なる行政処分によつて原告等は次の通りの損害を蒙つた。即ちもし申請が許可されていたならば昭和二十五年一月中まで少くとも鮭にして二千尾、これを一尾六百円に換算しても計金百二十万円、労力を控除しても金百万円程の利益が得られたのであるから、右金額相当の得べかりし利益を失つた。よつてこの損害を求めるというのである。

而して原告主張の各河川が年々十二月より翌年一月にかけ産卵期に夥しい鮭が遡上し、県内はもとより全国でも珍らしい豊漁の場所であるが、原告等は一定期間禁漁区と定められている右河川において、右禁漁期間中鮭捕獲の特別許可を得ようとし運動をなして来たが、昭和二十三年十二月二十九日原告等は被告県知事に対し右特別許可の申請をなし、右知事が昭和二十四年一月四日原告主張の許可を与えた(但し原告中佐藤六兵衛を除く)が、翌昭和二十四年十二月原告等は山形県知事に対し右特別許可申請をしたところ、知事は同年十二月二十四日山形県の許可方針に該当しないとの理由で之を却下したことは当事者間に争ないところである。ところで旧漁業法(明治四三、四、二一法五八)第三十四条は地方長官は水産動植物の繁殖保護又は漁業取締の為主務大臣の認可を得て、水産動植物の採捕に関する制限又は禁止の命令を発し得る旨を定め、同法案に基き山形県漁業取締規則はその第二十二条において本件滝淵川(その支流である三田川を含む)等の一定区間を一定期間禁漁区となす旨規定し、又旧漁業法施行規則(明治四三、一一、一二農商令二五)第四十五条は法第三十四条による命令は養殖、学術、研究その他特別の理由により行政官庁の許可を受けた場合には適用しない旨定め、これを受けて県取締規則第二十一条は知事に対する許可申請手続を規定しているのである。そして前記施行規則にいう特別の理由とは法第三十四条の趣旨に照らして水産動植物の繁殖保護及び漁業取締の見地よりする公益上の理由を指すものであると解すべきである。そして原告等の前記申請が右取締規則第二十一条に基くものであることはその主張によつて明かである。右旧漁業法施行規則及び山形県漁業取締規則の規定するところは有用水産動植物の自然繁殖を助長するため、特定水域内の水産動植物の採捕を禁止又は制限するも、水産動植物の養殖、学術、研究、その他特別の理由ある場合、即ち概ね数量、時期、方法を限定して、その目的を達成するに必要な条件を具え明かに水産動植物の繁殖保護に役立つと認められる或特定人に限つて水産動植物の特別捕獲の許可が与えられるべき趣旨であると解すべく、従つて右許可処分は所謂覊束処分というべきであるけれ共、成立に争ない乙第四号証ノ一、二によると山形県当局は昭和二十四年十一月中人工孵化事業と相関々係にある水産動植物特別捕獲に於ては、鮭の資源培養を合理的能率的にするため、従業者同志協力の精神及び高度の経験技術を絶対必要とするので、之に適応しない従業者を整理脱落せしめることとし、尚各水系の性状等の実態と遡上する鮭資源量とを鮮明し、之に適応する合理的規模の孵化場設置等の問題の究明を俟つて漁業政策の根本的改革を計るを要するとなし、之が確定するまでは昭和二十二年度(本件許可は前述の通り昭和二十四年度)の許可数を限度とし、特別捕獲許可の不拡大方針をとることに決定したことが認められ、右方針採用の結果一度許可をなし許可条件に合致する者と雖も、許可の更新をなさず許可数を制限する等の処置をとることは許可権者が法規の精神に従い適正な漁業政策を実施するため当然の裁量の範囲に属するものというべきである。従つて右の方針に従い山形県当局が昭和二十四年度一年丈け本件許可を与え翌年度の許可申請を却下したことは何等違法又は不当の処分ということはできない。此の点に関し原告本人鈴木藤右衛門、同鈴木清、同鈴木泰雄は本件不許可となりたる原因に付き右と異りたる事実を供述するけれ共、之を採用することは出来ない。原告は本件許可申請の如きにあつては一度許可があつた以上引続いて毎年許可になるのが慣例であるのに之を却下した本件知事の処分は右慣例に反する違法があるという。右原告の所謂慣習は慣習法を指すものと解せられるが、法治国に於ては行政法の範囲に於ても成文法主義が要求せられ、法律に於て自ら慣習法の効力を承認する場合か又は法律の規定の存しない範囲に於てのみ行政的慣習法の存在を認むべきものであることは論を俟たぬところである。然るに前示の通り法規により水産動植物の採捕を禁止制限する場合の条件及右禁止制限を排して許可を与うる場合の条件が定められておる場合、単に慣習法により許可不許可を決することは出来ず、かかる場合慣習法の存在は許されぬものといわねばならない。

次に原告は昭和二十三年十二月被告県を代表して水産課長伊藤金次郎、技師渋谷啓一等が現地調査のため現地に出張し、両氏はそれぞれ地元民大衆に対し昭和二十四年度から毎年許可になるから隣接部落と協調融和を図り人工孵化事業の発達に寄与せられたい旨提示し、よつて昭和二十四年度からは毎年申請さえなせば必ず水産動物捕獲の許可を与える旨公約したので本件不許可は右公約に反すると主張するので案ずるに、証人佐藤長太の証言、原告人鈴木清、同鈴木藤右衛門、同土門伝治郎、同鈴木義雄の各供述を綜合すると右原告主張の様に県の係吏員が本件許可に際し将来も特別捕獲の許可を与える旨約束めいたことを言明したことを認めることが出来るが、成立に争ない甲第一号証の一、二に徴するも右言明は権限ある者の行政処分としての手続形式を履践した適法のものと認むべきでなく、単に正当権限なき県吏員の一放言と解すべきものである。尤も尚他の条件を充すことにより之に基き国家賠償法の定むるところにより、公共団体に対し右吏員の行為により損害賠償の成立することあるは格別、右吏員の右所為により当該行政庁が拘束を受け、本件不許可の行政処分を違法又は不当ならしめるものということは出来ない。

然らば本件不許可処分の違法不当を理由とする本件原告請求は理由がないので之を棄却すべきものとし、訴訟費用負担に付民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 大竹敬喜 立川俊夫 野田栄一)

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